十二月
あなたの反対側にも部屋があった。動物しかいない? 動物しかいない。壁にくっつけているところが黄色くなって、夜の窓みたいだと思ってから本を閉じたからね。読んだ人は誰も話さなかったけど、鳴き声の中に雪が降っているような生き物も、信じられてた。時代がそういうことを許す国っていうだけで、顔があんなに縞模様を右から左へ動かしていくのもよくなかったし、電池なら心をじゅうぶん死ぬまで支えるほどあるよ。目を閉じている人形が欲しかった。買えるだけの仕事は残ってる。十二月をさわってきた人に配られる、この薄青いお金を知ってしまう前に。
坂
セロテープでいいというのは嘘だったかもしれない。鳥に何度も追いかけられた坂を、きみは鍵のこわれた自転車で再生した気でいるね。音楽は自分から出るものだよ。ヘッドフォンはそれを吸収してあの表面の白い箱に渡してるだけ。手ざわりがなくなって落としてしまった皿のこと、できれば壁に書いておいてほしい。壁って、手のひらだから。自分にだけは死んでからもずっと見えるところが。
三日前
コンビニのことがぼくらにもわかったから、睫毛をハサミでばらばらにして、自分を組み立てるように真剣に読ませてもらったよ。菜の花。いちじく。えんどう豆。靴に中敷きがわりにサラダも敷いてあって、山をのぼっていく風に自転車の絵の切手を貼って柵から声をかけていたから。よかったよって油がまたこぼれる。これが三日前だなんて、いったい四日前はどんな人だったんだろう。
深夜
髪型だね、みんなが花をもぎ取ったあとを「地面だから」といってかくしたがるのは髪型だけだ。手で変えてしまえる社会がきみにはあるのに、電車の窓でかくして友達と眺めてる深夜がはちみつの原材料で、ふたから公園へ鳩の足跡がつづいているからあの子は笑ってしまった。電池がささってる人形がおしえてくれる。まだ大丈夫なバスは矢印が南を向いているって。着いたらここに電話してとわたされたとんがり帽子のきれはしに、友達は痴漢だよと書いてあった。