煙草とカセットテープの離婚

遠くにある文字は小声で話しているわけではない

十二月

あなたの反対側にも部屋があった。動物しかいない? 動物しかいない。壁にくっつけているところが黄色くなって、夜の窓みたいだと思ってから本を閉じたからね。読んだ人は誰も話さなかったけど、鳴き声の中に雪が降っているような生き物も、信じられてた。時代がそういうことを許す国っていうだけで、顔があんなに縞模様を右から左へ動かしていくのもよくなかったし、電池なら心をじゅうぶん死ぬまで支えるほどあるよ。目を閉じている人形が欲しかった。買えるだけの仕事は残ってる。十二月をさわってきた人に配られる、この薄青いお金を知ってしまう前に。

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三日前

コンビニのことがぼくらにもわかったから、睫毛をハサミでばらばらにして、自分を組み立てるように真剣に読ませてもらったよ。菜の花。いちじく。えんどう豆。靴に中敷きがわりにサラダも敷いてあって、山をのぼっていく風に自転車の絵の切手を貼って柵から声をかけていたから。よかったよって油がまたこぼれる。これが三日前だなんて、いったい四日前はどんな人だったんだろう。

ギプスちゃん

雲からなんでも取り戻せるよ、とギプスちゃんがいったことおぼえてる。ギプスちゃんは小学四年生、一年が二百年で計算すると地球なら八百年生。音速で来たことがある夏ならだいたい知ってるって。入道雲に写真を貼って「これがママだよ」って貝殻にいわせてたあの午後のことも、知ってる。この砂浜はだれの聖域なんだろう。しずかに燃えさかるストローのほうから謝ってきたって、得意げに目をつぶる女の子向けヒーローの中身は針金ハンガー。男の子向けヒーローの足の裏はなべの蓋だから、いいからこっちに出ておいで、からっぽのジャム瓶の匂いがした。みんな電飾とまちがえられてただけなんだ。

深夜

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電車

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