煙草とカセットテープの離婚

遠くにある文字は小声で話しているわけではない

2019-01-01から1年間の記事一覧

眉毛

スズメバチをおしえたら鏡が暗くなって、そこに堤防が埋まってるような色だね、髪がのびた人がたずねてくるらしい。三十歳になってるって。終バスは何度も同じ話の中に出てきた。ホテルがあれば、朝があるのと同じことだから爪を切りながら、運転手のいない…

水中

私をしらべてから散歩に行ってくれたら、そのひろい道は竹垣に沿って折れ曲がり、つぼみだらけの木の枝、右にも左にも意識を畳んだ、パンフレット。馬のたてがみ。ヘッドフォン。気はたしかだと、四月の電柱に引っかかってる綿のシャツの、おかえりなさいっ…

半島

これは約束だった。何度も夏が来て、何度も列車が出ていくという約束。玄関と玄関は草原が繋いで、ほんとうはドアの幅だけあればいい草の帯が全世界を覆ってしまうのは、みっともないから禁止だよと叫びながら眠ってしまいたいほどの、ビデオテープ。何かが…

下着

孤島がきみの下着だと知って、どうしようかと思った。大浴場のドアがわからなくて、片っ端から壁に「ここですか?」と書いてたら知らない土地に来てしまった。汚い字が好きだから、くだものと前髪にも同じように書いて、窓に映った時計の文字盤と、似たよう…

ボタン

ラジオドラマ。呼ばれたと思って目覚めたら三月の洋服が、小さな山のふもとにきちんと畳まれていたんだ。みんなはそれを交差点だと思ってる。袖の部分が、昼の住宅地を通って夕方のショッピングセンターに至る道だって、信じてる。でも人は自分の顔に似た写…

数字

きみごとの町、きみごとのコンビニ、きみごとのブックオフに、しおれたサラダみたいな街路樹も添えてから、みんなで捨てたふるさとにさっき戻ってきたんだ。健康サンダル。それは呼ばれずに春の雨にとけてしまった番組の名前。画面が何十年も同じ道路だけ映…

写真

ここにいるのはいい警官ばかりだよ、と警察署が云った。記憶が十字路をいくつも持っているので、そのどれが泣いてるのか本当は知らないのに、指さしたのは夏がまだ赤いところを照らしていた岬の反対側の写真で、きみが泥棒の格好で煙草をくわえる、足を組ん…

駐車場

ビートをくれよ、ときみが瞼をたまに鳴らしたんじゃないかな。いつもの布団にあたっているたった今の太陽、その大げさなあかるさは大丈夫だと思ったよ、しんどくても生きていける。だから反対側のホームで花火をしていたり、なにげない自分の特徴を紙に書い…

名前

タクシーが待っている昼に少し並んでからケーキ皿にのせられている手をどけて、いいなと思った服に声をかけた。それがあなたの一年間に起きたことのすべて。日記にはもう少し鳥の声や百貨店の屋上の雨の痕をつけ足したけど、つくり話だったこと自分でも忘れ…

しばらくバスが来ないから、月に行こう。それはロープウェイのかたちをした魂で、一人乗りだけどむりして一緒に乗ってしまった、午後三時。ちいさくなった工場がもう塩粒くらいしかつくれないサイズの銀色になってる。ぼくらが最初に傘を差した歩道を、どこ…

四角い土地

まさかこんな石を拾うとは思わなかった。色のことかたちのこともそうだけど、自分で決めたコンビニを勝手に更新して自分の月にしてしまう。そういうきみの性格が誰かのなげた石で音をたてて倒れるのを、もっとみてみたいし、これ以上みたくない。ほんとうの…