煙草とカセットテープの離婚

遠くにある文字は小声で話しているわけではない

名前

タクシーが待っている昼に少し並んでからケーキ皿にのせられている手をどけて、いいなと思った服に声をかけた。それがあなたの一年間に起きたことのすべて。日記にはもう少し鳥の声や百貨店の屋上の雨の痕をつけ足したけど、つくり話だったこと自分でも忘れてるだろうけど、わたしはおぼえている。ケーキ皿は日陰にあって皿の下がもっと暗いことを世界に忘れさせている。とれなくなってしまった窓の傷を最初からそういう空だって思い込みたかった午前中に、リモコンが踏まれて偶然録画されてしまったニュースがあったね。死んだ人はよくリモコンを踏んでいく、死んだら宙に浮かんでしまうなんて嘘で死んだら足の裏がちょうど床に落ちたリモコンの厚みの高さをどこまでも歩いていく。誰かが生まれてくるとみんな同じ名前になってから全員でもう一度分け合うことになったのは、名前はそうでなければどこまでも人間に負け続けてしまうから。ここはそういうチャンネルなんだ。