煙草とカセットテープの離婚

遠くにある文字は小声で話しているわけではない

ボタン

ラジオドラマ。呼ばれたと思って目覚めたら三月の洋服が、小さな山のふもとにきちんと畳まれていたんだ。みんなはそれを交差点だと思ってる。袖の部分が、昼の住宅地を通って夕方のショッピングセンターに至る道だって、信じてる。でも人は自分の顔に似た写真しか撮ることができないよ。思い出せる範囲の友達から、塗りつぶすように少しずつ膝がこっちに迫ってきて、暗くなる。信号機や天の川がまぶたの一部に変わってた。きみの時計は中身が貝殻でもちゃんと動くんだ、勇気さえあればね。最近になって輪ゴムが背中に当たるような気がする。それって袖のボタンを全部はじき飛ばして、水中の石を拾おうとしたときのことだよ。目が光るのはかっこ悪いからって、おいしい魚の話をしてごまかしたんだと思う。街灯に恋人ができた。隙なくガムテープで巻かれていたから、顔だと知らずにキスしてしまったんだ。