煙草とカセットテープの離婚

遠くにある文字は小声で話しているわけではない

半島

これは約束だった。何度も夏が来て、何度も列車が出ていくという約束。玄関と玄関は草原が繋いで、ほんとうはドアの幅だけあればいい草の帯が全世界を覆ってしまうのは、みっともないから禁止だよと叫びながら眠ってしまいたいほどの、ビデオテープ。何かが西の階段を駆け下りる、しっぽだけが録画されしまうよね。いつか黄色や緑の酒が混じりあい、笑ったり踊ったりしてる人を透かせて波風が立つ、その最後の部屋で音楽になるのを待ってるコインは息のようにあたたかい。次の駅が半島をはみ出しても戻ってこれるよ、ゴムがついてるからねと貝殻が割れながら話した。泣いている傘がくるくると砂をはじく家族、目と目が合うと風邪をひいて、そのまま歴史を休んでしまう人にハンカチと煙草を貸してあげよう。聞いたらそんな部屋になってしまう音楽が、ここにも届くルートは口癖だけでなく、雲の形や、栞紐についてしまった癖もそうだし、壁を叩いてみんなが帰ったと知らせてくれる手だけの子供も、きみが思うよりずっと前から失神してると、音楽はおしえてくれる。それに人間は地下室よりだいぶ小さいことも。音楽は、時にはそれよりもっと小さいんだ。